【訪問看護の現場から】その「大丈夫」が心配です――ご高齢のご家族の転倒を防ぐために、家庭でできること

2026年07月08日


こんにちは。札幌市東区で訪問看護・訪問介護・サービス付き高齢者向け住宅を運営している、合同会社TOURI代表の森です。

今日は、私たちが訪問のたびに気を配っている高齢者の転倒予防についてお話しします。「うちの親はまだしっかりしているから大丈夫」――そう思っていた方ほど、あとで振り返って「あのとき気づいていれば」とおっしゃることが多い。離れて暮らすご家族にこそ、知っておいてほしい話です。

「たった一度の転倒」で、暮らしが変わってしまう

転倒は、ただ痛い思いをするだけでは終わりません。厚生労働省の令和4年の調査では、高齢者が介護を必要とするようになった原因のうち、「骨折・転倒」が第3位(13.0%)を占めています。認知症、脳卒中に次ぐ多さです。とくに足の付け根(大腿骨)を折ると、手術や入院で寝て過ごすうちに一気に足腰が弱り、そのまま歩けなくなる方もいます。

こわいのは、一度の転倒が「寝たきりへの入り口」になりうることです。だからこそ、転んでからではなく、転ぶ前の予防が何より大切なのです。

私たちがよく出会う、ヒヤリとする場面

ここで一つ、現場でよく見る場面をご紹介します。これは特定の誰かの話ではなく、私たちが繰り返し出会う、よくある光景です。

うかがうと、居間から寝室への通り道に新聞や小さな段ボールが置かれ、床には電気コードが伸びています。玄関マットの端が少しめくれ、夜のトイレまでの廊下は暗いまま。ご本人にお聞きすると「ここは何十年も住んでる家だから、目をつぶってても歩けるよ」と笑っておられます。

じつは私たちが訪問で見ているのは、ご本人の足元だけではありません。壁や家具も見ています。いつも同じ場所の壁に手垢がついていたり、先週より家具がほんの少し動いていたり。それは「そこで体を支えている=よろけている」サインです。ご本人が「大丈夫」とおっしゃっても、部屋のほうが本当のことを教えてくれる。「この前ちょっとよろけてね」と、こともなげに話されるその一言と、壁に残る手の跡。大きな転倒の前には、たいていこうした小さなヒヤリが先に起きています。だから私たちは、そこを見逃さないようにしています。

転ぶのは「外」より「家の中」

意外に思われるかもしれませんが、高齢者の転倒は住み慣れた家の中で多く起きています。消費者庁に報告された高齢者の転倒事故のうち、およそ半数近く(48%)が自宅で起きていました。場所としては、浴室・脱衣所、寝室(ベッドや布団まわり)、玄関、庭や駐車場、階段などが目立ちます。

つまり、危ないのは特別な場所ではなく、毎日通るいつもの動線なのです。慣れているぶん油断が生まれ、わずかな段差やめくれたマットが命取りになります。

なぜ高齢になると、転びやすくなるのか

一つは、加齢による筋力とバランス感覚の低下です。足が上がりにくくなり、わずかな段差につまずく。とっさに踏ん張る力も落ちています。加えて、目の見えにくさ(暗い場所や段差が判別しにくい)、夜間にトイレへ起きる回数が増えることも、夜の転倒につながります。

そしてもう一つ、見落とされがちなのがお薬です。

お薬とふらつきの関係

血圧を下げる薬、眠るための薬、不安をやわらげる薬などは、ふらつきやめまい、日中の眠気を招くことがあります。とくに睡眠薬・抗不安薬の一部は、翌朝まで効き目が残って足元がおぼつかなくなることがあります。

また、いくつもの病院からたくさんの薬が出て、飲んでいる薬が6種類以上になると、転倒などの副作用が起こりやすくなると、健康長寿ネットなどでも注意が促されています。

ここで一つだけ、はっきりお伝えします。だからといって、自己判断で薬をやめたり減らしたりしないでください。やめることで持病が悪化する危険もあります。「最近ふらつく」「日中もぼんやりする」と感じたら、そのことをそのまま、かかりつけ医や薬剤師、訪問看護に伝えてください。私たちは独自の判断でお薬を調整することはできませんが、ご本人の様子を正確に観察し、主治医や薬剤師の先生へ迅速につなぐ役割を担っています。

家庭でできる、転倒予防のひと工夫 ― まずは「家具の配置」から

むずかしい工事も、高いお金も要りません。まずは明日からできる「家具の配置と、ちょっとした工夫」から始めてみてください。現場でご家族によくお伝えしているのは、こんなことです。

動線の「障害物レース」をなくす。居間からトイレ、寝室までの直線上に、小さな棚や植木鉢、ソファの端がせり出していませんか。家具をほんの50cm動かして「まっすぐ歩ける道」を作るだけで、つまずきのリスクはぐっと減ります。まず一番よく通る道を、端から端まで歩いてみてください。

「つかまり立ち」の合わせ技。よく手をつく壁のそばに、あえてグラグラしない重い家具を置き、手すり代わりにしてもらうのも現場でよく使う手です。ただし、キャスター付きのワゴンや軽いカラーボックスは、つかまった拍子に動いて逆に危険。手すり代わりにするなら、動かないものを、しっかり固定して。

脱衣所には「椅子を1脚」。ご高齢の方が一番よろけやすいのは、ズボンや靴下を脱ぎ着する「片足立ちの一瞬」です。とくに冬場の寒い脱衣所は要注意。小さな椅子を1脚置いて「座って脱ぎ着する」を習慣にするだけで、お風呂まわりのヒヤリは一気に減ります。

寝室は「起き抜けの一拍」を作る。朝、目が覚めて急に立ち上がると、血圧が下がってふらつくことがあります。ベッドや布団の横に、一度腰かけて一息つけるスペースや、手をつける安定した家具があると安心です。「すぐ立たない、一拍おく」。これだけでも違います。

尖った角は、よけるか包む。動線上にある角の尖った家具は、動かすか、保護クッションを貼っておきましょう。万が一よろけても、大けがにつながる二次被害を防げます。

そのうえで、足元を明るく(夜のトイレ動線に人感センサーの常夜灯を一つ)、滑りを止める(浴室・脱衣所に滑り止めマット、めくれる玄関マットは外す)、足に合った履物を(かかとのある脱げにくいもの。スリッパは意外と危険)。

手すりの設置や段差の解消が必要そうなら、介護保険の「住宅改修」が使える場合があります。手すりを付ける、敷居の段差をなくすといった工事に補助が出る仕組みです。対象になるかや手続きは、担当のケアマネジャーやお住まいの自治体にご相談ください。私たちも、実際にお部屋を一緒に見て、どこが危ないかをお伝えできます。

「わずかな変化」を、チームで見つける

私たちTOURIは、訪問看護(桃李)・訪問介護(ひのき)・サービス付き高齢者向け住宅(ひまり)を同じ法人で運営しています。強みは、ただお体を看るだけでなく、こうした「生活環境のわずかな変化」をチームで共有できることです。

たとえば、ヘルパーが気づいた「最近、部屋の物が増えて動きにくそう」「あの家具、また少し動いている」といった小さな気づきを看護師に伝える。看護師は「では、ふらつきが増えていないか」「お薬の影響はないか」を確かめる。そうやって、転倒が起きる前の小さなサインを、みんなで拾い上げています。

ご家族だけで毎日見守るのは大変ですし、ご本人は「大丈夫」としか言わないものです。私たちは、その「気づく目」を増やすためにいます。

離れて暮らすご家族へ ― 帰省のときの確認リスト

次の帰省や面会のとき、さりげなく見ていただけると安心なポイントをまとめました。印刷して持っておくと役立ちます。

  • 居間から寝室・トイレへの通り道にものが置かれ、家具の角がせり出していないか
  • 玄関マットやカーペットの端がめくれていないか
  • 夜のトイレまでの廊下が暗くないか(常夜灯があるか)
  • 浴室・脱衣所に滑り止めと、座って脱ぎ着できる椅子があるか
  • 壁や家具に手をついた跡がないか。体に、最近できた青あざすり傷がないか
  • 「この前よろけた」「つまずいた」という小さなヒヤリを話していないか
  • 飲んでいる薬が増えて、日中ふらつく・眠そうにしていないか

一つでも気になることがあれば、それは相談の合図です。「なんだか歩き方が変わった」「あの家具、動かしてみようかな」と感じたら、その勘はたいてい当たっています。気になることがあれば、どうぞ気軽に声をかけてください。いまの様子(ふらつき・住まいの気になる場所・お薬)を、そのままケアマネジャーや当ステーションに教えてください。一緒に考えます。

札幌市東区とその近郊で、ご家族の転倒や在宅の療養・介護にご不安があれば、合同会社TOURIにお気軽にご相談ください。下記のフォームから、どんな小さなことでも受け付けています。

▶ ご相談・お問い合わせはこちら: https://touricare.net/contact/

ご本人もご家族も、住み慣れた家で安心して過ごせますように。


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